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大阪地方裁判所 昭和39年(ヨ)100号 判決 1965年2月04日

申請人 東巌

被申請人 関西電力労働組合

主文

被申請人が、申請人に対し、昭和三八年一〇月一日付でなした、組合員としての権利を三年間停止する旨の処分の効力を本案判決確定に至るまで仮りに停止する。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

一、申請人代理人は、主文第一項同旨の裁判を求め、申請の理由として、

(一)  申請人は、被申請人組合(以下組合という)の組合員であり、組合規約第六八条には組合員に対する懲戒事由として第一項に綱領、規約および決議に違反した時を、第三項に組合の統制をみだした時をそれぞれ規定してあるところ、組合は、「関労加入条件の遡及組合費を未納し、規約第六八条第一項および第三項に違反した」ことを理由に、昭和三八年一〇月一日、申請人に対し、申請人を権利停止三年の処分に処する旨通知した。

(二)  しかしながら、右処分は次に述べる如く無効である。

(1)  関西電力株式会社(以下会社という)尼崎東発電所の従業員中、電気産業労働組合(以下電産という)に残留していた電産組合員五九名は、昭和三一年三月一五日、大会において、電産を解散し全員組合に加入手続をとることを決定した。同様の方針は、当時会社に残留していた電産組合員約一二七〇名に共通のものであつた。申請人は、前記発電所の従業員であり、当時電産尼東分会執行委員長であつたが、右決定に従い、同日電産を脱退するとともに組合に加入の申込をした。

(2)  ところが、申請人ら元電産組合員の加入申込に対する組合の熊度は極めて差別的なもので、約一二七〇名のうち、昭和三一年一〇月頃約一〇〇〇名の加入を認め、同三二年の初頃さらに大部分の加入を認めたが、申請人を含む一部の元電産組合員については加入承認を遅らせ、特に申請人を含む尼崎東発電所の八名については、漸く昭和三四年六月二九日本部執行委員会で加入を承認した。

(3)  而して、本件処分理由にいう遡及組合費なるものは、申請人が組合に加入申込をしてのち加入承認されるまでの期間の組合費相当額を指すものであるが、申請人は、右期間中、組合の組合員ではなかつたものであるから、右期間について組合費としてこれを支払うべき義務はない。また、遡及組合費の支払が組合加入の条件となつたことはなく、組合規約第七〇条との関係上、遡及組合費の支払を組合加入の条件とすることはできない。いずれにせよ、組合は、遡及組合費の支払を申請人に強制することはできず、その未納を理由に申請人を懲戒することはできないから、本件懲戒処分は無効である。

(三)  よつて、申請人は、被申請人に対し、懲戒処分無効確認の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、確定判決をまつていては、権利停止期間の徒過により、事実上救済されないことは明確であり、また、申請人は、従来から積極的な組合活動家であるところ、右処分により役員の選挙権、被選挙権、大会その他の会議における発言権、代議員と本部委員および役員の言動を公に批判する権利等の組合員としての基本的諸権利を三年という長期間はく奪されることにより、回復し難い損害を受けることになるので、本申請に及んだ次第である

と述べた。

二、被申請人代理人は、申請却下の裁判を求め、申請の理由に対する答弁として、第一項および第二項(1)は認める、第二項(2)のうち、組合が申請人の加入承認について差別的取扱をなし、特に一部の元電産組合員の加入承認を遅らせたとの点は否認するが、その余は認める、同項(3)は争うと述べ、

被申請人の主張として、次のとおり述べた。

(一)  組合が結成されたのは、昭和二八年五月三日であるが、その後一年ばかりの間は、組合として新規加入申込者に対し特別の規制を加えることなく、加入届を支部で受付けることによつて、即加入となるとの方法を採つていた

(二)  ところが、同年一二月一一日組合は、会社との間にユニオンシヨツプ制を含む労働協約を締結したことから、組合に加入していない人達の身分の保障をどのようにすべきかという問題が生じ、ここに自ら組合規約特に加入承認機関、方法等についての規定の不備な点を検討する必要が生じたのである。その結果、同年一二月二一日第四一回執行委員会において、(1)、加入の承認は本部執行委員会で行う、(2)、加入の効力は本部執行委員会の承認によつて加入申込日に遡つて発生する、(3)、組合加入を前提とする電産脱退の場合は、ユニオンシヨツプ制に拘らず右加入承認日までの身分保障をするとの案件を決定し、昭和三〇年五月二五、二六日、和歌山県白浜町で行われた第四回本部定時大会に右案件を提出し、承認されるに至つたのである。

(三)  ところで、申請人からは、昭和三一年三月一五日付で加入申込がなされたのであるが、その頃、電産より脱退した人達が、組合へ無条件で統一的加入をさせるべきであると称して、多数の機械的、統一的申込をなしていた。そこで本部執行委員会は、申請人を含むそうした人達の加入申込に対しては、慎重に検討した上で承認するか否かを決定すべきであるとの態度をとることとし、その旨同年三月一九日の第五六回執行委員会において確認し、さらに同年五月二一、二二日兵庫県洲本市で行われた第五回本部定時大会で右案件が報告され、かつ承認されたのである。

(四)  前記の如き措置がとられたのは、次のような事情によるものである。即ち、組合が結成されるに至つた理由は、従前より存在した電産の活動方針ならびに活動自体に対する批判と反省から、新しい活動方針をもつ組合を電産とは別個に作ろうということにあつたのであるから、組合は、その結成の趣旨を十分理解し、その趣旨に賛同する者のみを以て構成することが組織強化のためにも好しいわけであり、従つて、右趣旨を理解しない機械的統一的加入申込者に対しては、十分注意して検討する必要があるところから、前記決定をなすに至つたのである。

(五)  次いで、前記大会決議に基き、昭和三一年八月一三日第一四回執行委員会において、(1)、現在本部において保留中の加入申込者については、前記大会決定の方針に則り、加入の可否について慎重検討の上決定する、(2)、加入者の組合費は加入申込の時期を以て徴収する、旨決定し、右案件は、昭和三二年五月二〇日から同二三日までの間兵庫県城崎町で行われた第六回本部定時大会に提出され、承認された。なお、右案件中、申込日に遡つて組合費を徴収する件(遡及組合費)が提出され議決された理由は、ユニオンシヨツプ協定があるに拘らず、組合への加入を条件とする電産脱退者に対しては従業員たる身分を組合において保障するのであるから、組合費については申込日に遡つて納入させても不合理ではないという趣旨であつた。

(六)  本部執行委員会においては、前記決定の趣旨を徹底さすため申請人と話合を重ねたが、その結果、申請人は、昭和三四年六月二九日、旧大ビル四階組合中ノ島支部事務所において、当時の本部組織部長井上博、本部書記長片岡馨、副委員長浜野数に対し、(1)、組合の活動方針を確認して以後これに従う、(2)、加入承認は加入申込日に遡るので、組合費は加入申込日に遡及して支払う、但し、納入方法は後日本部、地区、支部で合議決定する、(3)、尼東支部の電産残余財産の処理については兵庫地区の決定に従う、という条件を確約した。そこで、同日開かれた第五七回執行委員会において、申請人の加入を承認したのである。ここにおいて、申請人は組合員たる資格を取得するとともに、右合意により組合費を加入申込日に遡つて別途機関の決定する時期までに支払う義務を負担したのである。

(七)  ところで、前記の如く、遡及組合費の支払時期については、後日別途機関の決定するところに従うこととされたが、これは、前記面接に際し、申請人から実状を考慮してできれば分割払にしてもらいたいとの申し出があつたので、執行委員会としては、即時払が原則であるが(他の加入者はすべて即時払をしている)、特に申請人の立場を考慮するという趣旨からそのように定められたのである。

(八)  次に、前記の如く加入申込と承認との間に時間的な間隔が生じたのは、(1)、本部執行委員会において、前記第一四回執行委員会の決定に基き組合の結成趣旨ならびに基本方針を申請人らに理解して貰うべく努力するについて相当の期間を要したこと、(2)、電産尼東支部、分会にあつた固有財産を申請人を含む残留組合員だけで分配したことから、右会分から早期に組合に加入した組合員との間に、右財産分配の問題で好ましくない状況が生じたのであるが、組合としては、申請人を含む右残余財産取得者達も何れは組合に加入する以上、右財産の性質上、残留組合員だけで分配取得すべきではなく、右取得財産は組合に寄付してもらうことが最良の方法であるとの見解に立ち、その旨了解を得るため申請人らに交渉を重ねていたが、なかなか了解がつかなかつたことによるものである。従つて、この点は申請人が主張する如く組合の方で特に差別的取扱をして加入承認を遅らせたものではない。

(九)  ところで、前記組合費の具体的支払方法については、昭和三四年七月二二日第四回執行委員会において協議の結果、向う一年以内に納入すべきことが決定されたが、その後、本部組織部長井上博らが申請人に面接の上、遡及組合費の納入方を交渉したところ、申請人は、遡及組合費の支払義務は認めるが、その支払については当月分の組合費と合せて合計約五〇〇円宛、期間にして約三年六月にわたつて支払いたい旨希望を申し述べたので、右意向を昭和三四年九月一四日第一一回執行委員会で検討した結果、遡及組合費は原則として一年以内に完納すること、但し万止むを得ない実状が認められる場合には二年まで猶予する旨の決定がなされ、その案件は同三五年五月二四日から二六日まで和歌山県白浜町で行われた第九回本部定時大会に提出、承認された。而して、申請人に対しては、地区本部を通じてその旨文書で通知した。

(一〇)  ところが、申請人は、昭和三五年一月二二日、本部宛に遡及組合費二〇〇円を納入してきた。そこで、本部執行委員会としては、申請人が前記第一一回執行委員会で決定された納入期限を了解しているかどうかを確認するため、同月三〇日付文書で兵庫地区本部に対し、同本部は同年二月三日付文書を以て申請人所属の尼東支部宛にそれぞれ通知し、さらに、本部組織部長井上博は直接申請人に面接し、支払期間の点について了解を求めたが、申請人から期限までに納入するとの確約は得られなかつた。

(一一)  そこで、本部執行委員会は、申請人の希望を容れるべきかどうかを再検討したが、本部としては、前記の、原則として一年以内に完納すること、但し事情によつては二年まで猶予するとの決定を曲げるべきでない旨再確認をなし、その旨を同年一一月二五日付書面で組合尼東支部長宛に通知し、同支部長から申請人に連絡した。

(一二)  一方申請人は、昭和三五年一月二二日から同三八年九月三〇日までの間に遡及組合費一二、〇〇〇円中合計三、八七〇円を納入しており、この事実からみても申請人自ら遡及組合費の納入義務を認めているものであるが、その残額は二年の猶予期限を経過するも納入しなかつた。

(一三)  そこで、本部は、昭和三八年三月五日、文書で兵庫地区本部宛に遡及組合費の完納方を督促し、さらに同年四月二三日付文書で完納なきときは規約上の処分に出ることを警告し、地区本部はこれを尼東支部に、同支部はこれに基き申請人にその旨を通知した。

(一四)  しかし、申請人は、なお残額を納入しなかつたので、本部執行委員会は、昭和三八年七月一六日、規約細則第一五条に基き、申請人において規約第六七条第一項の違反があると認め、同規約第六八条第一項、第三項を適用して申請人に対し、組合員たる権利を三年間停止する、但し、本決定の効力発生は同年一〇月一日とする旨の決定をなしたのである。

(一五)  以上の経過に基いてなされた申請人に対する本件懲戒処分は正当である。

三、申請人代理人は、被申請人代理人の主張に対して、次のとおり述べた。

その第一項は、不知、第二項中、昭和二八年一二月一一日組合と会社との間にユニオンシヨツプ制を含む労働協約が締結されたことは認める、組合規約検討の必要を生じた理由ならびに第四一回執行委員会の決定内容中(3)については争う、その余の事実は不知、第三項中電産脱退者の組合への加入申込に対する組合の態度について第五六回執行委員会において確認されたところが第五回本部定時大会においてそのまま承認されたことは否認する、すなわちこれは修正のうえ承認されたものである、右大会においては、討議の結果、電産関西地方本部の解散を最終段階として、組合に対し加入申込をした電産組合員全員の加入を承認することが決定されたのである(電産関西地方本部は右大会直後の昭和三一年五月三〇日解散した)、第四項は不知、第五項のうち遡及組合費の提出、議決の理由は争う、その余は不知、第六項中申請人が井上組織部長、片岡書記長と面接した事実は認めるが、その席上遡及組合費の支払が加入条件であること、納入方法につき本部、地区、支部で合議決定することならびに尼東支部の電産残余財産の処理は兵庫地区の決定に従うことを申請人が確認し、当事者間に右遡及組合費の支払に関する合意が成立したことは否認する、第七項、第八項は争う、第九項のうち申請人が遡及組合費の支払義務を認めその分割払を希望したことは争う、右支払時期につき第九回大会において承認されたところを申請人に文書で通知したことは否認する。その余は不知、第一〇項中申請人が二〇〇円納入したことならびに申請人が納入について確約しなかつた事実は認めるが、その余は不知、第一一項のうち、本部執行委員会が再確認した事項を尼東支部長を経て申請人に連絡したとの点は否認する、その余は不知、第一二項中申請人が三、八七〇円納入したことは認めるが他は争う、第一三項中四月二三日付文書により懲戒処分についての警告のなされたことは否認し、他は不知、第一四項は認める。而して、被申請人は申請人の本件遡及組合費支払義務は申請人と組合との合意により生じた旨主張するが、仮りに右の如き合意が当事者間に成立したとしても、そもそも右遡及組合費なるものは、申請人が昭和三一年三月一五日組合へ加入の申込をしてから、同三四年六月二九日本部執行委員会において加入を承認されるまでの三年余の期間に対するものであるところ、申請人はその間その組合員ではなかつたのであつて、組合員でなかつた右期間について組合費を支払う義務はなく、組合も申請人より右期間中の組合費を徴収する権利を有しない。かくの如く本来的に組合費であり得ないものを組合費であるとして、その支払を義務づけるような合意は無効である。即ち、かかる合意は、労働組合における組合員の均等待遇の原則に違反する。右原則は、労働組合の基本原則の一つであつて、これに違反しては法内組合としての保護を受けられないことからいつても当然である(労働組合法第五条第二項第三号)。

仮にそうでないとしても、右合意に基く遡及組合費支払の時期方法については追而協議してきめるということが同時に合意されており、被申請人が一方的に決定できるとするようなとりきめは何もなかつた。従つて、遡及組合費の納入についての合意なるものは、申請人に対してせいぜい法的効力をもたない自然債務を負担させたものにすぎず、一定の時期においてその納入を強制することのできるものではないし、その納入について組合の機関で決定してみても、その不履行に対して義務違反の制裁を加えることはできない。要するに、本件遡及組合費の支払を怠つたことは組合の統制権の範囲内にあるとはいえない。

四、被申請人代理人は、申請人に本件遡及組合費支払義務がなく、従つてその不履行に対しこれを統制違反として制裁を加えることは許されない旨の主張に対し次のとおり述べた。

当事者間の遡及組合費支払に関する合意は有効である。まず右合意の内容であるが、それは、「加入承認は加入届の日附に遡るので組合費の遡及支払を確認する」というものである。即ち右合意の内容は、申請人をして加入届の日に遡つて組合員としての地位を取得せしめること、従つて当然組合費も遡つて支払われるべきこと、というのに尽きるのである。そしてこのように、何故に申請人に遡つて組合員としての地位を取得せしめる必要があつたかという理由は、前記主張の如く、ユニオンシヨツプ協定に関し組合が申請人の従業員たる身分を保障するという点にあつたのである。なるほど、申請人も主張するとおり、加入届から加入承認がなされるまでの間、申請人が組合員としての地位を事実上享受していないことは明かであるけれども、ユニオンシヨツプ協定との関係で組合員としての地位を遡つて取得せしめ、従つてその間の組合費を支払うこととすることが、当事者間の合意によつてもなし得ないとは考えることができない、申請人は、右の如き合意が、労働組合における組合員の均等待遇の原則に違反すると言うけれども、前述のとおりユニオンシヨツプ協定との関係でなされた右合意は合理的な理由に基くものであつて、何ら均等待遇の原則を侵害するものではないのである。

(疏明省略)

理由

申請人が、会社尼崎東発電所の従業員であつて、かねて電産尼東分会に所属し、同分会執行委員長の地位にあつたこと、会社内に従業員の新な統一組合組織として組合が結成されるに及び、右発電所従業員中電産に残留していた組合員は、昭和三一年三月一五日大会において、電産組織を解散し全員組合に加入手続をとることを決定し、申請人も右方針に従い、同日組合に対し加入の申込をしたこと、右方針は当時会社内に残留していたその他の電産組合員についても同様であつて、約一、二七〇名が加入申込をなしたところ、組合は、昭和三一年一〇月頃約一、〇〇〇名の加入を認め、同三二年初頃さらに大部分の加入を認めたが、申請人を含む一部の元電産組合員については加入承認が遅れ、申請人を含む尼崎東発電所の八名については、同三四年六月二九日本部執行委員会で加入が承認されたこと、一方組合は、申請人に対して組合への加入申込時以降の組合費(遡及組合費)の納入を求めたところ、申請人は、昭和三五年一月二二日以降、右による遡及組合費一二、〇〇〇円のうち、三、八七〇円を納入したに止まり、残余の納入をしなかつたこと、そこで、組合は、申請人の右所為が組合規約第六八条第一項(綱領、規約および決議に違反した時)、第三項(組合の統制をみだした時)の懲戒事由に該当することを理由に、昭和三八年一〇月一日付で、申請人に対し、同日以降三年間組合員としての権利を停止する旨の処分を通知したこと、会社と組合との間には、昭和二八年一二月一一日ユニオンシヨツプ制を含む労働協約が締結されていることは、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、本件の争点である申請人に右遡及組合費の支払義務があるか否かの点について判断する。

およそ組合費は、労働組合の行う諸活動の資金として、組合運営に欠くべからざるものであり、これが納入は組合員の基本的義務の一つである。従つて、組合員がその支払義務を怠つた場合、組合がこれを理由に当該組合員に対し懲戒処分をなし得ることについても多言を要しない。しかし、それが組合費である以上、その納入義務は組合員資格の存在を前提とするものであり、組合員資格取得以前に遡つて組合費を支払う義務は原則的には否定さるべきである。たゞ右の原則に立脚するとしても、組合財政上の理由から、規約または組合決議により、全組合員に対し、組合員資格取得前の一定の期間について組合費相当額を納入させること(それは形式は組合費であつても加入金としての性質を有するものと思料される)まで許されないとみるのは至当な態度ではあるまい。右の如き場合にその支払義務が肯定されるのは、労働組合の内部事項については組合の自主性を可及的に尊重するとの配慮に基くものであることは勿論であるが、何よりも右組合費の徴収につき組合員均等待遇(平等)の原則が遵守されているからである。組合員均等待遇の原則は、民主的な労働組合の存立の基礎をなすものであつて、労働組合法第五条第二項第三号の規定もこれを強行法的に宣言したものとみるべきである。従つて右原則は労働組合の組織および運営について遵守すべき基本原則であり、これに違反した組合の規約、決議等は無効といわなければならない。勿論右原則違反の有無は、具体的場合につき実質的に判断さるべきであるから、形式的には不平等な処遇であつても、これについて合理的根拠があり、実質的にみて均等待遇の原則に背反しない場合の存することが考慮さるべきである。

右の如き見地から本件遡及組合費の内容をみるに、弁論の全趣旨によれば本件組合費は、組合に加入申込をした元電産組合員のみに対し、その加入申込時より加入承認にいたるまでの期間についてこれを徴収することとしたものであることが認められ、形式的には右組合員均等待遇の原則に違反することは明かである。そこで申請人ら元電産組合員に対し特に遡及組合費を負担させる合理的な根拠が存し、実質的にみて均等待遇の原則に背反しないものであるか否かの点を検討しなければならない。この点についての被申請人の主張は、組合と会社との間に前記ユニオンシヨツプ協定が存在することから、これとの関係で申請人ら加入申込者に組合員としての地位を遡つて取得させる必要があり、これにより組合が申請人ら加入申込者に対し、右協定の存在にも拘らず、加入承認日までの身分保障をするのであるから、組合費についても、これを加入申込日に遡つて納入させる十分な理由が存し、均等待遇の原則に反するものではなく、またその支払義務は当事者間の合意に基き発生したものであるということに尽きる。しかし、ユニオンシヨツプ制の下において、会社が非組合員たる従業員を解雇するのは、協約に基き組合に対し負担する義務の履行としてなすもので、通常は組合からの解雇要求に基き解雇する場合が多く、その意味において、組合の態度と解雇との間に事実上の関連性を否定し難いとはいえ、解雇そのものは会社と当該従業員との間の個別的労働関係における問題であり、被申請人主張の如く組合が非組合員たる従業員の身分を保障するということは法的には無意味な事柄である。会社が組合とのユニオンシヨツプ協定に基き非組合員たる従業員を解雇した場合組合としてはどのようにして当該従業員の身分保障を計ろうというのであろうか。かくて右身分保障と対価的な関係において組合費を納入させることに合理的な理由を見出し難い。また、本件の場合、組合員としての地位を加入申込日に遡つて取得させるものであるとしても、それが形式的な組合員資格の付与に止まるものであつて、組合員としての実質的な権利、利益をこれが否認されていた過去に遡つて行使ないし享受させることが不可能なことである以上、遡及組合費を負担させる根拠になり得ないことは明かである。本件の場合、申請人は、電産解散と同時に組合に対して加入申込をなし、組合への加入意思を明確にしているのであり、しかも右加入申込に対し組合が加入拒否(ユニオンシヨツプ協定が存在する場合においては、組合への加入拒否は、それが組合の団結権の擁護のため真に止むを得ざる措置と認められる場合に限り許容されるものと解すべきである)の態度を決定しない段階にあつたのであるから、かかる場合、会社が、組合の加入承認がなく、従つて非組合員であるとの理由で、直ちに申請人を解雇し得るものとは到底解し難いところである。ユニオンシヨツプ制は、団結権の維持、強化をはかるため、当該組合に加入する意思のない者または組合から正当な事由があつて排除された者を会社に解雇させる点に存在根拠があるからである。結局、申請人が、前記加入承認までの期間、従業員としての地位を保持し得たのは、法的には、このように会社がユニオンシヨツプ協定に基いて申請人を解雇する理由がなかつたことによるものとみるべきであり、組合において申請人の身分保障をしたことによるものとはなし難いものと言わなければならない。而して、被申請人は、本件遡及組合費の支払義務は申請人と組合との間の合意により発生したと主張するのであるが、前記の如く本件遡及組合費を申請人に負担させることが、組合内部における自主的決定の限界を超え、組合員均等待遇の原則に違反し許されないものである以上、仮にこれが支払について当事者間に合意がなされたとしても、かかる合意は無効であり、申請人に本件組合費の支払義務を負わせる根拠にはなり得ないものと考える。従つて、被申請人の前記主張はそれ自体失当と言わなければならない。

本件の場合、遡及組合費の徴収が許容される要件について考えるに、それが認められるのは、形式的には組合員資格を否認されていたにも拘らず、その期間役員選挙権、大会への出席発言権等対内的諸権利の行使が認められ、また組合施設の利用等共済利益の享受も許容される等、実質的に組合員と同様の取扱がなされた場合に限られるものと解すべきであり、これが不可欠の要件をなすものとみるのが相当である。しかし、申請人に対しそのような取扱がなされたものであることは被申請人においてなんら主張するところがない、従つて、本件においては、遡及組合費の徴収を適法化する余地は全く存しないことに帰する。

右のとおりであるから、本件遡及組合費については、その徴収が決定された経過について審理するまでもなく、申請人はその支払義務を負わないものと結論するのが相当である。

而して、申請人に対する本件権利停止の懲戒処分は、前記の如く、申請人が右遡及組合費の支払を怠り、組合の規約、決議等に違反しまた組合の統制をみだしたことを理由とするものであるが、右に述べた如く、その前提となる遡及組合費の支払義務そのものが存しないものである以上、申請人の所為が前記規約所定の懲戒事由に該当しないことは明かであり、本件懲戒処分は無効と言わなければならない。

次に、申請人が従来から積極的な組合活動家であり、また本件処分により、役員の選挙権、被選挙権、大会その他の会議における発言権等組合員としての基本的権利の行使を現に停止されていることは被申請人において明かに争わないからこれを自白したものとみなすべく、右事実と弁論の全趣旨によればこのまま本案訴訟の判決確定をまつていては、権利停止期間の徒過により事実上救済の機会を失い、著しい損害を受けることが明かであるから、本件懲戒処分の効力を仮に停止する仮処分の必要性を肯定せざるを得ない。

以上の次第で、申請人の本件仮処分申請は理由があるから、保証を立てさせないで、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中原恒雄 荻田健治郎 弘重一明)

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